シークレット・ブルー 〜結ばれてはいけない私たち〜
「これから碧を慰める役目は、杏香とカミジュンにバトンタッチだね」
「蒼……」
 
 僕が敢えておどけて言うと、杏香の両目が赤くなって、みるみるうちに瞳が潤む。

「そんな悲しい顔しないで。僕たちのこと、今までずっと相談してきた杏香にだからこそ、聞いてほしくて」

 誰にも言えない関係を、碧は杏香にだけ話している、と言っていた。僕もそうだ。
 碧と付き合いたての十六歳から、二十歳の今まで、杏香にはたまに碧との話を聞いてもらっていた。
 僕も碧と同じで、他に気を許せる親友なんていないから、杏香との時間は貴重でありがたいものだった。

「今まで相談にのってくれてありがとう。すごく感謝してるよ」

 僕は杏香の手をそっと取って、握手をする。
 時折カフェオレのボトルを握っていた手は温かい。

「やめてよっ、お礼なんて言わないで」
 
 泣き声の杏香が、その手を駄々っ子のように払いのける。

「……あたし部外者だけどっ……! あたしは、碧だけじゃなくて……蒼にも幸せになってほしいよ。だって蒼も、めちゃくちゃいいヤツなんだもんっ……」

 杏香が涙をこぼすのを見るのは初めてだった。
 いつも自分を部外者と言いながら、自分なりに真剣に考え、はっきり述べてくれるのが彼女の優しさだ。
 頬にぱたぱたと落ちる涙の滴を、ボルドーのネイルが施された指先で拭いながら、杏香がさらに続ける。

「覚えてるよ、初めて会ったときのこと。……碧の彼氏が蒼だって話、碧から聞いたときはまさかと思ったけど、でもふたりがすごい想い合ってるって聞いて、そのときは応援したくなったんだ。なのに……いまさらこんなこと言って、ごめん」
「ううん。いいんだ。杏香の言ってることは正しいから」

 僕は首を横に振った。
 僕と碧の関係は、世間には理解してもらえないもので、彼女がそう考えるのも当然だ。
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