「好き」と言わない選択肢
 それから、ジュースの企画に頭を悩ませた。ジュースとして商品化したいが、酸っぱさを利用して、ドレッシングやカクテルにも使いたい。でも、もっとインパクトも欲しいが、ジュースとしての飲みやすさも必要だ。
 企画から商品開発へ持ち込むため、あらゆる可能性を考えた。

 金曜日、ギリギリで企画書の提出が出来た。しかし、会議では次から次へと課題を出されて泣きたくなるほどだった。だけど、こんなに企画について意見を出してもらえた事は始めてで、正直わくわくと高揚してくる感覚もあった。

 でも、こうなってくると必然と彼とかかわる事が増えてくる。


 忙しそうな彼に、申し訳ないと思いながらも相談すれば、適切なアドバイスをくれる。

「橋本さん!」

 彼に呼ばれて顔を上げる。また、企画の直しだろう……

「はい」

「ジュースの企画通った! これから忙しくなるぞ。今年の夏の新商品だ」

 いつも冷静に淡々仕事を熟すイメージの彼だったのに、もしかしたら仕事に対して熱い思いがあるのではないかと思えてきた。
 でも、何より私の企画が通ったと言うのだ…… 夢かな?


「ええ…… うそっ」

「橋本さん凄いじゃない。真面目にコツコツやった成果が出たわね」

 部長が満面な笑みを向けて、肩を叩いてくれるが、まったくピンと来ない。
 だけど、まわりに目を向ければ、皆が手を叩いて喜んでくれている姿がある。私は、徐々に状況を理解し始めた。

「さっそく企画会議始めよう」

 主任である彼の言葉に、私は両手で顔を覆ってしまった。

「よかったね。新商品に向けて頑張ろう」

 ずっと同じ部で仕事してきた里奈が、ハンカチを差し出してくれた。泣いてなんかいないと言いたいのに、声が思うように出せなかった。涙で枯れてしまって……

 こんなに動揺した姿を人前で見せてしまうなんて…… もっとしっかりしなきゃダメだ……
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