「好き」と言わない選択肢
 私は、黙って下を向き、自然に膝の上に置いた手を握りしめていた。

「まあ、仕事上は上手く行ってるし、気にすることもないが……」

 私が黙ってしまった事を、彼は気にしたのだろう。

「すみません……」

「いや、謝る事じゃないよ。それより、パッションフルーツの農家との契約と、試作品の確認をしないとだな」

「はい。デザイン部とのスケジュール調整もしなければですし」

「やる事だらけだぞ」

「あの……」

「何?」

「このジュースの販売が、長く続くにはどうしたらいいんでしょうか?」

「今更? 長期販売できるように、はじめから企画しているんじゃないのか?」

「そうなんですけど…… ただ、ずっとお店に並んでいて欲しいなと……」

「皆そう思ってるよ」

「そうですね……」

 私は、両手で包んでいたジョッキを見つめた……



 それから、忙しい日々が続いたが、ジュースの企画は販売に向けて進んでいた。勿論、上手くいかない事もあったが、いつもチームの皆が助けてくれた。特に、パッションフルーツの農家との契約には、主任の彼が何度も足を運んでくれた。


 休憩室のいつもの影の席に腰を下ろした。販売機で買ったカフェラテのカップを口に運ぶ。

「はあー」

 いくら企画が通ったといえ、自分の力の無さを改めて実感させられた。チームの皆に迷惑かけてばかりだ。もっと段取り良く、もっと沢山の選択肢を持っていたら……

 ガチャンッーー

 自動販売機から缶が落ちる音がした。すぐに去っていくだろうと、じっと息を潜めた。 

「確かに、そんな所に隠れていたら、誰も気づかないな」

「ぎぁっ」

 驚いて、変な声が出てしまった。
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