「好き」と言わない選択肢
皆の気持ち
 企画室に戻ると、出来上がってきているサンプルとの睨めっこだ。

「橋本さんは、ほんと企画の仕事が好きなんだね」

 里香さんが、隣に座って言った。

「はい。皆さんもこの仕事が好きですよね?」

「もちろん。好きじゃなきゃやれないわよ」

「そっかぁ。好き…… すき…… すきー すっきー すっきり あっ、スッキー。どうですか? Sukky!!」

 そして、商品名は以外に簡単に「Sukky」と決まってしまった。世の中こんなもんなんだな……


 あれからよく分からないが、上手く進んだ時には、彼と目を合わせてしまう事が増えてしまった…… いつもはクールな彼が、嬉しそうに目を細める姿に、胸がキュンと音を立てた。

 好きからのsukky、それが、何も出来ない私が、唯一残せる思いになるとは思わなかった。


 そして、ついに机の上に試作のsukkyがならんだ。正式には、「sukky パッション&レモン」だ。

少し太めのボトルに、太めのキャップ。ラベルは、パッションフルーツとレモンが甘酸っぱさを思わせるよう、イラストレーターが仕上げた。
 チーム皆で机の上の黄緑色のsukkyを囲んだ。

「橋本さん、まずは飲んでみて……」

「私でいいんですか?」

「勿論」

 スッキーへ伸ばした手が震える。
 やっと出来たと思うと、思わず胸に抱きしめてしまった。

「抱きしめているだけじゃダメだろ?」

 彼に言われて、ちょっと恥ずかしくなったが、思い切ってキャップをあけた。

 ゆっくりと口へ運ぶ。

「うわー 美味しい……」

 どうしよう、また泣きそうだ……
 何度も試飲して、分かっているはずの味なのに、美味しいと思わずにはいられない。

「私も飲もう」

 部長が、sukkyを手にすると、チームの皆も続いて飲み始めた。

「うわーっ」

 皆から歓声があがる。この味になるまで、何度試飲をしたことか……

「完璧だな」

 彼の声と同時に企画室のドアが開き入って来たのは、営業部に異動になった岡田さんだ。

「俺にも飲ませて。これからは、俺達が責任もって店に並べるからな」

 岡田さんは、私の方を見て、ニッと笑った。あの休憩室での会話であまりいい印象のないままだが、仕事への責任はある人のだと営業成績や噂を聞けばわかる。

「お願いします」

深く頭を下げた。私の大事なsukkyだもの……


「CM撮影だけど、離島でやる方向だから。準備しておいてくれ」

 主任の彼の言葉が部屋の中に響いた。

「あっ」

 思わず岸本部長の方を見てしまった。


「そうね。CMチームについては、撮影スタッフの方とも検討するわね」

 私も行きたい。行かなければ、絶対に後悔する。
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