「好き」と言わない選択肢
 数日後、CM撮影のため、一泊二日の離島へのグループに加わった。岸本部長と主任の彼も一緒だ。飛行機なんて、小学校の時以来だ。

 綺麗な海が広がると、これから始まる事に鼓動が高鳴った。

 スッキーを海に浮べ、アイスクリームにかけるシーンと、浜辺のBBQで焼いたチキンにかけ、俳優さん達が美味しそうに食べて飲むシーン。撮影は、さすがにベテラン揃いで順調に進んだ方だと思うが、少しの妥協も許さず、何度も取り直しもあった。私も商品のイメージについて、意見を求められる事もあり、緊張が絶えなかった。

 自分が企画したものが、色々な人の力で一つの製品となり世の中に伝えられいく。凄い事だと思った。やっぱり半端な気持ちで企画なんてできない。この仕事が出来て良かった。

 今日の分の撮影が終わり、ホテルのビーチに一人で座って海を眺めていた。

 自分の企画した商品が発売される。それだけで、十分幸せだ。

 肩にそっと、カーデガンらしきものがかかった。

「本当によく頑張ったわね。少し風が出て来たから…… ゆっくり見たいでしょ」

 岸本部長が後ろに立って優しく微笑んでいた。

「ありがとうございます」


「うん。私は先に部屋に行ってるね」

「はい」

 海からの風が気持ちい……


 また、後ろに立つ人の気配がした。岸本部長が戻ってきたのな?

「綺麗だな」

 そう言って、横に座ったのは彼だった。

「お疲れ様です」

「お疲れ。後は。発売日を待つだけだな」

「楽しみでもありますけど、やっぱり、心配ですね」

「そうだな。でも、やる事はちゃんとやった」

「あの、海辺のお店にも置いてもらえると嬉しいな」

「よし、じゃあ行くか?」

 彼は、立ち上がると私の手を掴んで歩き始めた。

 さっき私が見ていた店の中へ入って行った。思ったより広い店のカウンターに座ると、アイスコーヒーと言った。私も同じものを注文した。

 彼は、マスターらしき人に、興味ありげに店の内装の事などを聞き始めた。しっかり話し込んで、帰りがけに鞄から、sukkyを二本取り出した。
 いつの間に鞄の中に……

「良かったら飲んでみて下さい」

「ああ、さっき撮影していたやつか?」

「ええ」

 マスターは、すぐにボトルのキャップを開けると、ぐいっと飲んだ。
 ドキドキして、マスターの顔を伺う。

「なかなか旨いね。パッションフルーツか? 好きな味だ。 色々アレンジできそうだ。店に出してもいいかもな」

「ありがとうございます」

 彼と私は、深々頭を下げた。
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