「好き」と言わない選択肢
真実
~木島遥~

 彼女が橋本咲音という名だと知ったのは、新入社員紹介の時だった。

 あの店のカウターに座り、時々店の手伝いをしている子だとすぐに分かった。笑顔の可愛い子だと思っていたのに、ある時から、あまり笑わなくなった。

 でも、あの日、彼女の目が俺を変えた。今の俺がいるのは彼女のお陰だと言っていい。


 岡田の奴が冗談にも彼女を賭けに出し、声をかけると言った時には、かなり焦った。この時、すでに俺は彼女を好きだったのだと思う。

 岡田なんかに声をかけられてたまるかと思って、慌てて彼女のいるもんたに行った。それなのに、、俺は思いっきり嫌われてしまった。情けない……

 何度も、彼女に理由を説明しようと思ったが、目すら合わせてもらえなかった。今は、何を言っても言い訳にしかならない。信用してもらうには、仕事で成果を見せるしかないと覚悟を決め、大阪に向かった。
 もし、あの時、彼女に一言でも何かを伝える事が出来たら、何か変わっていたのだろうか?


 二年後、本社に戻り、彼女と同じ企画部に配属された。やっと信頼関係を気付けたと思ったのに、彼女は俺を寄せ付けようとしない。よほど嫌われているようだ……

 それでも、彼女の企画が通り、仕事では信頼を取り戻せたと思っていたのだが……
 彼女はまだ、あの賭けの事を許せていなかった。また、彼女が俺から遠ざかってしまった気がした。


 撮影が終わり、空港に到着した。夕べ、一晩考えたが、やっぱり彼女を諦める事が出来ない。空港を出たら、もう一度、彼女と話をしようと思った。

「橋本さん。しっかりして!」

 少し前を歩いていた、岸本部長がうずくまる彼女の元に走った。
 俺の身体は勝手に走り出していた。

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