「好き」と言わない選択肢
 険しい顔をした拓真の姿があった。

「わかんねぇよ……」

「お前…… そんな状態で、絶対に咲音の前に姿見せんじゃねぇぞ。帰れよ!」

「うっ……」

 俺は、両手で頭を押さえる。

「お前に分かるもんか、咲音がどんな思いで、今まで生きて来たのか…… 目障りだ!かえってくれ!」


 俺は、拓真に引きずられるように病院を出された。その事さえも、理解できていいない。
 誰か、何が起きているのか教えてくれ。


「木島君!」

 ふらふらと病院の外を歩く俺の腕をガシッと掴まれる。

「岸本部長……」

「一度、会社に戻ろう」

 部長が止めたタクシーに乗り込んだ。


「部長は、病気の事を知っていたんですよね……」

 たいした病気じゃないと言って欲しかった……

「ええ。橋本さんが入社した事を、社長は知らなくてね…… この会社で商品企画をしたい気持ちに負けたみたいよ。でも、周りで誰か一人は、倒れた時の対処方を知っておいてもらうって事が条件だったの。
 もちろん仕事にかんして贔屓はしないけど、激しい動きだけは配慮して欲しいって頼まれてた。だから、撮影も本当は連れてってはダメだったの。でも、自分の身体の事は自分が一番わかっているって。これが最後だって言われてね…… 嫌になっちゃうね…… こんなの……」

 俺は、部長の言葉に、何が起きているのか理解せざるを得なかった…

 会社に戻るが、この時間じゃ、社員は居る気配はない。
 薄暗い中をただ歩く……

「おお、帰ってきたのか? 俺も、これから帰るところよ。一杯いかねえ? お。おい。どうしたんだよ、その顔…… 何かしくじったのか?」

「岡田くん……」

「岸本部長、お疲れ様です。部長……?」

「ごめんね…… 後、頼むわね……」

 よく見えなかったが、部長の声は掠れて…… 泣いていたんだと思う……

「えっ。部長……」


「おい、一体どうしたんだ…… 仕事の事じゃないのか? だったら? なあ、一緒に行ったのは橋本だろ?」

 橋本と、言われただけで、俺の感情はコントロール効かなくなった。

「うっ……」

 俺は耐えきれず、みっともないほどに泣き崩れてしまった……
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