「好き」と言わない選択肢
感じる心
 ~橋本咲音~

 薄っすら目を開けると、白い天井が目に入った。少し、胸に違和感があるが、落ち着いている。

 倒れちゃったんだ……


「咲音? 気付いた……」

 声を聞いただけで、誰が居るのかくらい分かる。

「ママ、パパ…… 倒れちゃった…… ごめんね……」

「謝る事じゃない。それより、撮影はどうだった? いいCMになったと報告を受けたぞ」

 パパの言葉で、撮影の帰りに倒れた事を思い出した。
 撮影に行った事を怒られない事に、あまり良くない状態なのだと察した。

「うん。凄く勉強になった。凄いね、自分の考えた商品が、皆に飲んで貰えるって……パパの仕事って、やっぱり凄い…… 楽しかった……」

「ばか。ここまでの会社にするのに、どれだけ大変だったかわかるか? 咲音は、もっともっと学ぶ事があるんだぞ」

「そうだね…… まだまだ……」

 せっかく撮影に行けたのにこんな事になってしまった。
 撮影に行くために、パパとママを説得するのに大変だった。でも、撮影に行った事に後悔はしていない。それに、撮影に行ったせいで倒れたわけでない事は、自分が良くわかっている。自分の体の事なのだから……

 だけど、会社の人に迷惑かけてしまった事は、申し訳ない……

「パパ達、先生に目が覚めた事を伝えてくるから…… 拓真くん、ちょっと咲音を頼むよ」

「はい。咲音、何か欲しい物あるか?」

 拓真兄が、パパ達の後ろから私の方に目を向けて立っていた。倒れた事を知って、駆けつけてくれたのだろう……


 パパ達が病室を出て行った。パパもママも、目が赤かった。

「お水…… あっ、さっき……」

 さっき、目覚めた時、彼にお水って言ったような気がするんだけど…… 夢だったのかな?

「これでいいか?」

 拓真兄が、ベッドを起こしてペットボトルの水の蓋を開けてくれた。
< 31 / 49 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop