「好き」と言わない選択肢
「はっ? 何を言ってるんですか?」

「そういう事には興味が無いので…… ごめんなさい」

 そう言いながら、顔が熱くなってくるのがわかる。


「病気の事、聞いたよ……」

「えっ。それなら……」

 彼の顔をみると、切なそうな表情で私を見ていた。こういう顔は見たくない。


「俺も、凄く考えた…… きっと君は、病気の事を俺に知られたくはなかっただろうなって思った。だから、気付かないふりをしている方法もある事は分かっている。だからと言って、気持ちが変わるかって言ったらそうじゃない…」

「そんな事……」

 困る……
 どうやって切り抜ければいい……


「大阪に行く前の事を悔いてるんだ。あの時、ちゃんと君に気持ちを伝えていたら、何か変わっていたんじゃないかって…… もう、後悔したくない」


 彼が、考えて答えを見つけてくれた事は、すごく伝わってくる。
 私だって……

 私は、手にしたsukkyを見つめた。
 彼は、黙って私の言葉を待ってくれていた。


「主任…… 私の病気が分かった時、パパとママ、凄く泣いたなんてもんじゃなくて、気が狂ったようだった。辛そうだった…… それを私に気付かれないように必死に、何でもない顔してました…… パパ達だけじゃない、おじさんもおばさんも…… 自分のせいで、こんなに人を苦しめるのかと思ったら、とても耐えられなかった…… 
 だから、大阪へ行かれる前に何があったとしても、何も変わったりはしないんです。分かってもらえませんか?」

「分からないよ……」

「主任! いい加減にしてください。もう、誰にも迷惑かけたくないんです」

 泣きそうになるのを、必死にこらえた。

「お前ってさ、神様か何かなの?」
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