【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 慌てふためくシュトラウス。
 このままでは話がまとまらないと感じたフレデリカは、彼の了解を得ることなく、別室へ向かおうとした。
 移動しようと、したのだが――。

「……シュウ?」

 彼に腕を掴まれ、それ以上進めなくなってしまった。

「……すまない。きみにそんなことを気にさせてしまって。俺は大丈夫だから、そばにいてくれないか? 俺は、きみと一緒にいたい。ともに眠りにつきたい」

 そう言ってもらえることは、嬉しい。
 けれど、それ以上を望むフレデリカからすれば、彼の言葉が引っかかってしまう。

「……一緒にいたい、だけなの? シュウは、私と一緒に寝るだけでいいの?」

 フレデリカの青い瞳が、シュトラウスを射抜いた。
 真っすぐに見つめてはいるが、彼女の瞳は、不安や焦りを孕んで揺れている。

「……私、魅力ないのかな」

 そうこぼしたときには、フレデリカは俯いていた。

 薄々思っていたことだった。
 何度もお泊まりしているのに、シュトラウスは、ただフレデリカを抱きしめ、キスを落とすだけで、それ以上のことはしてこない。
 愛されていることは事実だろうが、もしかしたら、彼はフレデリカに魅力を感じていないのかもしれない。
 愛情も、家族に向けるような感情で、今も彼の中では、自分は妹のようなものなのかもしれない。
 フレデリカの中で、そんな不安が膨らんでいた。
 妹や、それに近い扱いなら。自分に、女性としての魅力がないのなら。手を出してこないことにも納得がいく。

 こぼれそうになる涙をぐっとこらえ、フレデリカは笑顔を作る。

「やっぱり、今日は違う部屋で寝るね。あなたもゆっくり休ん、で……」

 フレデリカの言葉は、途中で途切れる。
 シュトラウスが、彼女をぐっと抱きしめたからだ。

「……ごめん。違うんだ。そうじゃない。きみは魅力的だ。きみが隣にいると、眠れなくなるぐらいには」
「え……?」
「俺が寝不足になるのは、隣で眠るきみを意識しすぎているからだ。……本当は、手を出したくて仕方がない。だが、なかなか踏み出せないまま、時間だけが経ってしまって……。俺が不甲斐ないせいで、きみを傷つけてしまい、本当にすまなかった」

 シュトラウスの腕の中で、そんな告白を聞いたフレデリカは――

「シュウ……?」

 下からじっと彼を睨み、お怒りであった。
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