【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 どうしてか、フレデリカは視線を泳がせており、シュトラウスと目を合わせようとしない。
 フレデリカのこの態度と、引っ越しの中止。
 シュトラウスは、一気に不安になった。
 もしや、知らぬうちに、彼女の心が離れるようなことをしてしまったのだろうか。
 既に結婚はしているが、共に住むことが決まったために、遅れてきたマリッジブルーを迎えている可能性もある。

「フリッカ。なにかあったなら、話してくれ。どんなことでも、受け止めるから」

 もうフレデリカを離す気などなかったシュトラウスは、すがるような思いで彼女に懇願した。
 そんなシュトラウスへの、フレデリカの答えは――。

「あの、ね。赤ちゃん、できたみたい」

 予想外すぎる幸福を突然ぶつけられたシュトラウスは、立ったまま意識を飛ばした。


 式の前に、たった一度だけ、彼らは直に触れ合っていた。
 あのとき、フレデリカのお腹に新たな命が宿っていたのだ。
 シュトラウスは、自分でも知らぬ間に、妻だけでなく子供まで、悪意から守っていたのである。

 フレデリカが自身の妊娠を知ったのは、今朝のことだった。
 妊娠が発覚したからには、慣れた場所――王城に住み続けたほうがいいだろう、という医師の言葉を聞き、引っ越しが始まる前に、急いでシュトラウスに伝えにきたのである。
 
 こうして、引っ越し先は変更され、二人は揃って王城に住むこととなった。
 王城は広いが、王城に住む者同士、すれ違うことなどは少なくない。
 弟、親友、夫。それから、妊娠中のフレデリカ。
 彼らは、頻繁に顔を合わせながら、同じ場所で暮らしていく。
 しばし時が経てば、そこにフレデリカとシュトラウスのいとし子が加わることだろう。
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