【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 時は、婚約前……フレデリカとシュトラウスの出会いのときにさかのぼる。
 王家の希望で、5歳の女の子と婚約することになったシュトラウスはといえば――

「こちらに拒否権はないのに、顔合わせの意味などあるのでしょうか」
「そう言うなシュトラウス。事前に会う機会があるだけ、いい方だと思っておきなさい」

 自分をたしなめる父の言葉に、苦々しくため息をつくような状態であった。
 この話が持ち上がったのは、シュトラウスが12歳になってすぐのころだった。
 一応は、婚約を受けるかどうか検討し、顔合わせし、再び検討……という形にはなっているものの、相手は王家。検討もなにもない。
 これは実質命令で、シュトラウスに拒否権はなかった。
 5歳の王女様との顔合わせのため、両親とともに、王城に向かう馬車に揺られるシュトラウス。

 シュトラウス・ストレザンは、この年にしてどこか色香の漂う、大人びた少年だ。
 髪と同じ色の漆黒の瞳は美しく、見つめられたら吸い込まれてしまいそうだ。
 彼がふっと優雅に微笑めば、年の離れたご婦人もぽーっとしてしまうことだろう。
 しかしその整った顔立ちも、今は不機嫌そうにゆがめられている。

 それも無理はない。
 シュトラウスは、そろそろ婚約者探しを始めようと思っていたところだったのだ。
 気になる相手はまだいなかったが、これから良き縁があればと考えていた。
 そこで、王家からのこの「命令」である。
 ストレザン公爵家は、第二の王家とも呼ばれるほどに力のある家ではあるが、本物の王家に敵いはしない。
 シュトラウス自身の意思も、ストレザン公爵家としての考えも、もう意味はない。
 シュトラウスはもう、5歳のお姫様と婚約を結ぶしかないのだ。
 相手は第一王女で、身分は申し分ないものだが、ストレザン公爵家として考える機会を奪われたこと、結婚を強制されることは、面白くなかった。

 第一王女なんて、絶対にわがままで高慢ちきに決まってる。

 まだ見ぬ婚約相手の姿を思い描き、心の中で悪態をついた。
 シュトラウスの頭の中には、わがままばかりの面倒な王女様が浮かんでいる。
 7歳下の女児にあれこれ命令される未来を想像し、項垂れた。
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