【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 しかし、彼のそんな思いは、フレデリカとの最初の顔合わせで覆される。

「こ、こんにちは……」

 これが、フレデリカの第一声。
 彼女に意識を集中してなんとか聞きとれるような、弱々しいものだった。
 内気な性格なのか、側妃である母の後ろに隠れており、姿もろくに見えやしない。
 シュトラウスからも挨拶と名乗りをすべきなのだが、本人がほぼほぼ見えないため、とりあえずは、向こうの動きを待つことにした。

「ほら、フレデリカ」

 母に手を引かれ、彼女はようやくシュトラウスの前に姿を現す。
 くりくりとした青い瞳は不安げに揺れ、今にも泣き出しそうで。
 緊張か、怯えか。少し震えているようにも見える彼女は、それでも必死に、シュトラウスの前に立っていた。

「フレデリカ・リエルタ、です……」

 なんとか、といった様子で名乗ると、彼女はおそるおそるシュトラウスを見上げた。
 シュトラウスが考えていたわがまま王女の姿は、そこにはなかった。
 目の前にいるのは、まだ幼くて、内気な、愛らしいただの女の子だ。
 フレデリカが小鹿のようにぷるぷるしているものだから、シュトラウスはすっかり毒気を抜かれてしまった。

「お初にお目にかかります、フレデリカ様。ストレザン公爵家の、シュトラウス・ストレザンです」
「……!」

 努めて穏やかに声を出し、フレデリカに微笑みかける。
 彼女に威圧感を与えないよう、片膝をついて目線も合わせた。
 意識してこんなにも優しく他者に接したのは、初めてだった。
 これ以上、彼女を怖がらせたくない、安心して欲しい。そう思ったのだ。
 シュトラウスの姿を刻み付けるかのように、彼女の青い瞳が開かれ、ぱちぱちとまたたいた。
 優しい声と笑みのおかげか、彼女からおどおどした雰囲気は消え、今では、シュトラウスをじいっと見つめている。
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