【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
「フリッカ。少し休んでおいで」
「ありがとうございます。お父様」

 終盤も近くなった頃、父王がフレデリカを気遣い、休憩時間を設けてくれた。
 王である父は、最初から最後まで休みなく働き続けているのになんだか申し訳ない気もするが、父の優しさをありがたく受け取った。
 シュトラウスもまだ戻ってきていないため、フレデリカは自由に会場を歩き始める。

 本日の夜会が開かれたホールには、多くのバルコニーがある。
 庭側の窓のほぼ全てに、バルコニーが設けられているといってもいい。
 窓の大きさに合わせて作られており、大きさは様々だ。
 1番大きなものだと、晴れた日の昼間には立食パーティーの会場の一部として使われることもある。
 小さなものだと、数人が身を寄せ合って使える程度のサイズになる。
 こちらは、カーテンを閉めて中から見えない状態にし、男女での逢瀬などに使われることも。
 王女であるフレデリカは、もちろんこのホールの作りをよく知っている。

 1番大きな窓の隣。
 そちらのバルコニーは見晴らしもよく、少人数用のスペースだから、誰かが使っていれば他の人が入ってくることもない。
 メインのバルコニーは広く、最も見晴らしがいいが、そのぶん人気があり、使う人も多い。
 フレデリカだって王女だから、他の者がいればふるまいには気を遣う。
 今いる場所は他者の邪魔が入らず、なにかあればすぐに会場に戻ることもでき、休憩にはもってこいだった。

「気持ちいい……」

 疲労したフレデリカを、夜風が撫でる。
 輝く月の下、銀の髪をなびかせるその姿は、幻想的なものだった。
 ふと、隣のスペースーーメインのバルコニーへ目をやると、ぽつぽつと人がいる中に、シュトラウスの姿が確認できた。
 漆黒の髪と目に、黒い燕尾服。黒で統一された彼に、夜の空はよく似合っていた。
 
 夜空に、溶けてしまいそう。
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