【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 少し距離があるし、シュトラウスはこちらに気が付いていなかったから。
 フレデリカは安心し、うっとりと彼を眺めた。
 彼も休憩中だろうか。一人で外の空気を吸っているようだった。
 そんな彼に、一人の女性が近づいていく。
 彼女はたしか、ハリバロフからの留学生で、辺境伯のご令嬢。
 ご令嬢――マリエルは、シュトラウスより少し年下だが、フレデリカと違って妖艶な女性だ。
 ウェーブした金の髪に、赤みがかった瞳。
 胸もフレデリカよりずっと大きく、つやつやとした唇も色っぽい。 
 初めて会ったときには、女性のフレデリカでさえもその色香にぽーっとしてしまったほどだ。
 彼女の留学はとっくに決まっていたが、家の事情で、数日前にようやくリエルタ入りできたのだった。

 ハリバロフで辺境伯といえば、リエルタとの国境を任された者のことをいう。
 同じく国境を守るストレザン家とは親交が深く、他国の人間同士ではあるものの、彼らは幼馴染らしい。
 男女ではあるが、自分とルーナの関係に近いのだろうと、フレデリカは考えていた。
 親し気に談笑する二人を眺めていると、なんだか寂しい気持ちになってくる。

 私も、ああやってシュウと話せたらいいのに。

 彼を避けているのは自分であるが、シュトラウスと自然に話せるマリエルが、少し羨ましかった。
 他の者もいるバルコニーだから二人きりというわけでもないし、彼らは幼馴染だしで、二人がそうして話すことを、フレデリカは特に問題に感じていなかった。
 そのご令嬢が、シュトラウスの胸に手をおいて懐にもぐりこみ、彼にキスをするまでは。
< 52 / 183 >

この作品をシェア

pagetop