【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 婚約したばかりの頃、シュトラウスが勝手に決めただけで、フレデリカにそんなことを言われた過去はない。
 ブラームの言う通りだった。反論もできず、シュトラウスは黙りこくる。
 そんな上司の姿を見て、ブラームはわざとらしくため息をつき、あえておどけたように言う。

「フレデリカ様が他の男とくっついてみろよ。荒れに荒れたお前と仕事するの、俺なんだぜ? 勘弁してくれよ」
「そんなことにはならない」
「噂の段階で既に荒れ荒れだろ」
「……」

 口ではこう言っているものの、シュトラウスだって気が付いていた。
 フレデリカを他の男に渡すなんて、無理だ。
 ブラームの言う通り、噂を聞いただけでこれなのだ。
 実際にフレデリカが他の男を選んだ場面など見たら、気が狂ってしまう。
 シュトラウスにはもう、フレデリカを手放すことなどできそうになかった。
 それでも、13年抱き続けた決意が、まだシュトラウスを縛っていた。
 フレデリカを手放すという、もうできはしない無理な決意に。

「……勝手な想いに縛られていたのは、俺のほうか」

 シュトラウスが、自嘲気味にそう呟いた。

「……始まりは完全に政略結婚だし、年上のお前が、そうやって線を引くのもわからなくはないよ。でもさ、自分自身の気持ちに素直になってもいいんじゃないか? 婚約者なんだし、お前がフレデリカ様の唯一になったってなんの問題もないだろ?」
「……そう、かもしれないな」
「かも、じゃなくてそうなんだよ! お前がこんなんじゃ、お前一筋のフレデリカ様が可哀想だろ! 大丈夫なんだからさっさと素直になれって! 妹だなんて言って無理しちゃってさあ~。こんなに荒れるぐらい大好きなくせによお」
 
 ブラームがシュトラウスの背をばしばしと叩く。
 男同士の乱暴なやり方ではあったが、シュトラウスには、彼なりの激励であるように思えた。
 ずっと内に秘めていた思いを吐き出し、親友に道を示してもらったことで、少し心が軽くなった。
 シュトラウスが、自分が抱くフレデリカへの想いに対して、ちょっとだけ前向きになった頃。





「ああ、フレデリカ様! フレデリカ様! フレデリカさまぁ! 私の真の愛であなたをお救いします! あなたもそれを望んでいるのですよね! フレデリカ様! 私も、あなたを愛しています」

 恍惚とした表情で紡がれる、愛の言葉。
 一人の男が、狂い始めていた。
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