【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 親しみを持ってもらえるのはいいけれど、囲まれると大変ね……。

 ようやく人垣から解放されたフレデリカは、疲労を滲ませながら息を吐く。
 少し休ませてもらおうと、こっそりと会場の端へ移動したとき。

「大変でしたね、フレデリカ様」

 と、一人の男性から声をかけられる。
 相手はたしかこの国の伯爵家の生まれで、年もフレデリカと近い。
 婚約者もおり、仲も悪くないと聞いている。
 少し前のガーデンパーティーで、花を眺めていた彼と少しだけ話した覚えがあった。
 
「今なら貴女を見ている人もほとんどいませんし、バルコニーへ出て少し休まれては? 今日は夜風が気持ちいいですよ」
「……ええ。ありがとう。少しのあいだだけ、そうしようかしら」

 男の話し方が、妙に馴れ馴れしく感じられた。
 一度話しただけだというのに、まるで、親しい間柄のような――。
 少しの違和感はあったものの、王女として育ってきた自分が相手の態度に敏感すぎるのかもしれない。
 そう思い直すと、男の勧め通り、会場端のバルコニーへと向かった。
 言われずとも、そうするつもりだったからだ。
 カーテンをめくると、開け放たれた窓の先に、数人で使える程度の広さのバルコニーが。
 一人夜風を感じ始めたとき、人の気配を感じた。
 足音も、すぐそばに聞こえる。

「……え?」

 先ほどの男が、当然のようにフレデリカのいるバルコニーに入り込んできたのだ。
 フレデリカの動揺など気にすることはなく、男は恍惚とした表情を浮かべながら、感激したようにこう口にした。

「やっと二人きりになれましたね、フレデリカ様」

 フレデリカの背筋に、ぞわりと冷たい感覚が走る。
 本能的に感じ取る恐怖。この男はまずいと、警鐘が鳴り響いていた。
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