【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 一方、フレデリカと離れたシュトラウスは、未練がましく彼女を目で追っていた。
 初めて自分の思いを吐露し、「なにを言ってるんだ」「素直になれ」と他者の目線からの意見を受けたシュトラウスは、フレデリカとの距離を縮める努力をし始めた。
 だが、今更だった。もう遅かった。
 シュトラウスから話しかけても、彼女は困ったように微笑むだけ。
 他の者には素に近い笑顔を見せることもあるのに、シュトラウスに対しては他人行儀だった。
 今日だって、早々に自分から離れていってしまった。
 シュトラウスがいつまでも過去の決意に縛られて、うじうじうだうだとしている間に、愛想を尽かされてしまったのだろう。

 人垣から解放され、一人になったフレデリカに伯爵家の男が近づいた。
 遠目にではあるが、男は親し気にフレデリカに話しかけている。
 もしかしたら、あの男がフレデリカの想う相手なのかもしれない。
 ずっと考えていた「もしも」の時が来てしまったのかもしれないと思い、シュトラウスはぐっと唇を噛んだ。
 
 二人のあいだに割り込みたくて仕方がない。
 婚約者は自分だとはっきりと伝えて、蹴散らしてやりたい。
 しかし、自分はもう、フレデリカに拒絶されている。

 ぐるぐると悩み続けるシュトラウスであったが、男がフレデリカを追ってバルコニーへ入り込む場面を見たら、もう我慢できなかった。
 王城ホールのバルコニーは、男女の逢瀬にも使われるような場所だ。
 カーテンに隠され、外でなにをしているのかは見えなくなる。
 たまらず、シュトラウスは駆け出した。
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