【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
「やっと二人きりにって、どういう……」
「嫌だなあ、照れちゃってます?」

 怯えを孕んだ、フレデリカの声。
 男は彼女の態度をものともせず、歪に笑う。

「お待たせしてしまい、申し訳ございません、フレデリカ様。あなたは人気者だから、なかなかタイミングが掴めなくて。でも、もう大丈夫です。あなたの想いは、ちゃんとわかっていますよ」
「なんの、はなし……?」
「ふふ、とぼけちゃって。フレデリカ様は本当に照れ屋さんだ。あなたを愛のない結婚から……シュトラウスから解放するって、約束したじゃないですか」
「やく、そく?」

 この男は、一体なにを言っているのだろう。
 もちろん、フレデリカのほうにそんな約束をした覚えはない。
 彼とは、庭の花がきれいだと、ほんの数往復の言葉を交わしただけだ。
 それが、どうしてこんなことに。
 美しい王女に話しかけられ、自分は特別だと思い込んだ男の、行き過ぎた妄想と暴走の行く末であった。

 怖い。怖い。怖い!
 
 逃げ出したいが、恐怖で足がすくんで動かない。
 もし動けたとしても、じりじりと近づいてくる男に退路はふさがれている。

「ああ、お可哀相なフレデリカ様……。婚約に縛られたあなたを、私の真の愛でお救いする。そうですよね! それを望まれているのですよねえ!」

 声を出せば誰かが助けてくれるかもしれないが、フレデリカの口からは、ひゅーひゅーと乾いた空気が漏れるのみだった。

「フレデリカ様、フレデリカ様、フレデリカ様!」
「ひっ……」
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