【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 ついに男はフレデリカに両腕を伸ばし、勢いよく抱き着いた。
 息を荒くする男に両手で身体を撫でまわされ、フレデリカは小刻みに震える。
 男が自分の肩に顔をうずめ、はあはあと匂いを嗅いでいるのもわかった。
 遠慮なくフレデリカに触れる手は、肩、背中、腰、それよりも下と、好き勝手にはいずりまわっている。

 あまりのことに頭が真っ白になったフレデリカが、やっとのことで絞り出した言葉は――

「……シュウ」

 だった。

 助けて。助けて、シュウ……!

 ぎゅっと目を瞑り、追うことを諦めたはずのその人に、心の中で助けを求めた。
 それとほぼ同時に、音を立ててカーテンが開かれる。

「フリッカ!」

 フレデリカの耳に届くのは、ずっと大好きだった人の声。
 目を開ければ、そこには、息をきらしたシュトラウスの姿があった。

「貴様……! 彼女になにをしている!」

 シュトラウスはずんずんとバルコニーに入り込み、フレデリカから男を引きはがす。
 二人のあいだに割って入り、フレデリカを自分の後ろに隠すと、男をぎっと睨みつけた。
 シュトラウスに「逢瀬」の邪魔をされる形となった男は、わなわなと震えて怒りを露わにする。

「シュトラウスううううう! 婚約者風情が、私たちの邪魔をするな!」
「婚約者、風情……?」
「フレデリカ様は、お前から救って欲しいと私に助けを求めてきたんだぞ!」

 男の言葉にぴくりと眉を動かしながらも、シュトラウスは、ちらりとフレデリカを見やる。
 フレデリカは明らかに怯えた様子でシュトラウスの服を握っており、男の言葉が真実だとは到底思えなかった。
 もしも男の言う通りなら、フレデリカがシュトラウスに助けを求めるようにすがりつくはずがない。
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