【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 閉会予定までまだ時間があったが、フレデリカは別室へ通された。
 襲われた後で男の自分がそばにいては怖いのでは、とも思ったが、フレデリカが嫌がる様子はなかったため、シュトラウスもそばについている。

 二人きりの部屋で、ソファに乗り上げて。
 フレデリカはシュトラウスの胸にすがりつき、シュトラウスはそんな彼女を優しく抱きしめていた。

 シュトラウスの温もりのおかげで、だんだんと落ち着いてきていた。
 フレデリカは思う。
 やはり、シュトラウスでなければダメなのだと。
 
 彼が自分を見てくれないのなら、他の人を好きになってしまえばいい。
 そう思い、自分から異性に話しかけるようになった。
 でも、誰と話したって、ドキドキなんてしなくて。
 シュトラウスと一緒のときのような、ふわふわとした心地も、もっと話したいという気持ちも、生まれなかった。

 さきほど、あの男に抱き着かれ、撫でまわされたときは本当に恐ろしかった。
 荒い息、ぬるりとした体温、触れられる感触の全てがおぞましく、悲鳴すら出なかった。
 でも、シュトラウスに抱きしめられ、彼の吐息や体温を間近に感じる今はそんな風に思わない。
 彼の腕の中は、安心する。
 ずっとここにいたいと思う。
 もっと深く彼を感じたいとすら思える。

 ああ、もうダメなのだ。フレデリカはもう、彼以外の人に、心も身体も渡せない。
 13年。積もりに積もった想いは、今更、消えてなくなったりしなかった。

「……ねえ、シュウ。私、あなたを諦めようと思っていたの」

 フレデリカを撫でる手が、動きをとめた。
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