【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 おかげで、一日を終える頃にはシュトラウスはくたくただ。
 そんなシュトラウスの癒しは、愛しのフレデリカ。
 王城で暮らし始めて1月も経つころには、シュトラウスはすっかり彼女に骨抜きにされていた。

 時刻としては、おやつには少し早いぐらい。
 その日、早めに自由になったシュトラウスは、王城のメイドにフレデリカの居場所を尋ねた。
 シュトラウスが王城の一室を訪ねると、彼の姿を見たフレデリカが、ぱあっと表情を輝かせる。

「シュウにいさま!」

 弾む声に、きらきらの瞳。
 シュトラウスに会えたことが、嬉しくてたまらないといった様子だ。
 これから一緒に遊べるのでは、と期待しているのもわかる。
 こんなにも大歓迎されてしまったら、頬が緩んでしまうのも当然だ。
 シュトラウスに向かって駆け寄り、ぽすん、と抱き着いてくるフレデリカを彼は優しく受け止めた。
 彼女のふわふわの銀の髪を撫でると、きゃっきゃと楽しそうに笑う声が聞こえる。

「授業はもういいの?」
「うん。夕方までフリッカと一緒にいられるよ」
「ほんと?」
「本当だよ。フリッカは、なにかやりたいことはある?」
「えっとね、えっとね、じゃあ……」

 お絵描き、お歌におやつの時間。
 王城の庭に出て、花を摘んだりもした。
 遊びすぎたのか、夕方を迎える前には二人揃って眠ってしまい。
 本当の兄妹のように身を寄せ合って眠る二人を見た者は、あらあら、と優しい笑みをこぼした。
 空き時間を見つけてはフレデリカに会いに行き、こんな風に仲良く過ごす姿は、王城名物のようになっていた。
 二人の仲のよさは、みなが知るところである。
 婚約話が浮上した頃の不機嫌さとは打って変わって、シュトラウスはもうフレデリカにデレデレだ。
 あくまで、妹としてであるが。
 年の離れた妹にメロメロにされた、親バカならぬ兄バカといったところか。

「ん、んん……。シュウにいさま……? えへへ、だいすき……」

 お昼寝の途中、ふと目を覚ましたフレデリカは、寝起きのぽやぽやとした感覚のままそう呟き、シュトラウスの胸に頬を寄せると、再び眠りに落ちた。
 シュトラウスが向けてくれた優しさに応えるかのように、フレデリカもまた、シュトラウスのことを強く信頼し、慕うようになった。
 互いに恋愛感情ではなかったが、二人の間では、確かな絆と愛情が育まれていた。
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