【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
「……愛してる。他の誰にも渡したくない、エスコートであっても、他の男に触れさせたくないと思うぐらいには、きみを愛しているし、独占したいと思っている」
「ならなんであんな態度なのお! バカあ! バカラウス!」
「ごめ、ごめん、フリッカ、ごめ」

 フレデリカの怒りももっともだった。
 愛する人に胸ぐらを掴まれてぐらんぐらんと揺さぶられ、ごめんと繰り返すシュトラウスの姿は、これ以上ないほどに情けない。

「……じゃあ、キスの件は?」
「キス?」

 先ほどもフレデリカが「他の女性とキス」と言っていたが、シュトラウスには覚えがなく、不思議に思っていた。

「私が城を抜け出した日、幼馴染だって人と……」
「……? ああ、マリエルの件か」
「やっぱりキスしてたんだ……」

 フレデリカの瞳から、再び涙が溢れだす。
 ぐすぐすと泣き出すフレデリカに慌てたシュトラウスは、誤解だと言いながら、己の懐からハンカチを取り出し、彼女の涙を拭う。
 そのハンカチには、フレデリカが施した刺繍があったが、いっぱいいっぱいの彼女はそれに気が付かない。

「マリエルはただの幼馴染で、それ以上でも以下でもない」
「ならなんでキス……」
「彼女は、ハリバロフから来たばかりだっただろ? こちらの文化にまだ慣れていなくて、ハリバロフの感覚で俺の頬にキスをしたんだ」
「ハリバロフ……。頬……。あっ……」

 そう言われて、フレデリカもようやく合点がいった。
 ここリエルタと違い、ハリバロフには挨拶としてハグやキスをする文化がある。
 自国の感覚でキスしないよう気を付けていると、ルーナも言っていた。
 もしも浮気のような意味のあるキスだったら、他の人に見られる場所で行わないはずだ。
 あれは本当に、ハリバロフ流の、挨拶としてキスだったのだろう。
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