幼なじみと恋をするには

「あった!よかったぁ、新刊あった!」


 放課後。約束通り、柊と本屋さんに寄った。


 私は新刊の小説とずっと欲しかった本を数冊、柊はお目当ての天文雑誌を購入した。大好きな作家さんの新刊小説を手に入れた私は、上機嫌である。


 昔からミステリー小説が好きな私は、この作家さんに憧れて自分でもミステリーを書くようになった。所属している文芸部では、毎月発行している部誌にちょっとしたミステリー小説を寄稿している。いつかはイヤミスも書いてみたい所存。


「新刊待ってた!嬉しい!」


 本の表紙や装丁を眺めてうきうきしていると、隣に立っていた柊がいきなり私の頭の上に手を置いた。


「?」


 反射的に柊を見上げると何故か優しく微笑んでいて、その表情に私はドキッとしてしまった。柊はそのまま私の頭を優しく撫でる。


「ちょっと、何するの」


 そう文句を言いながらも、自分でも分かるくらいに頬が熱くなっていた。


 いつも髪をぐしゃぐしゃにされたりはするけれど、なんであんな愛しそうな嬉しそうな顔をしていたのだろうか。


 柊が何を考えているのか、急に分からなくなった。ずっと一緒にいて、お互い分からないことなんて何もなかったのに。昨日から少し変ではないだろうか。


 柊はどうして私のこと、彼女にしたかったんだろう?


 いつもと同じように、お互いの家の前で別れた。


 普段となにも変わらないと思っていた柊が、なんだかちょっとだけ違うような気がしたけれど、あの本屋さんでの出来事以外、やはり別段違いはないようだった。


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