幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。


 ドタドタという足音とともに組員たちが帰って来たのがわかった。


「お、悠生先に帰ってたのか」
「ん?お嬢?どうしたんですかい?」
「あ、えっと、おかえり……」
「なんでもねぇよ」


 悠生は素っ気なく吐き捨て、立ち去ってしまった。一度も振り返ることはなかった。


「なんでぇ、あいつ。お嬢と喧嘩したんか?」
「いや、そういうんじゃないけど……」


 それから悠生は部屋に引きこもってしまい、夕飯も食べに来なかった。
 組員たちは那桜の作った料理を食べ、悔しそうに舌鼓を打っていた。

 それから悠生は私を避けるようになった。
 話をしたくても朝一で出かけてしまう。夜帰って来るのも遅かった。

 悠生は他の誰にも私たちのことは言っていないようで、他のみんなにはバレていないようだ。
 那桜はあくまで何もなかったという風に、見習いとしての仕事をこなしている。いつの間にか桜花組に自然に溶け込んでいるようにさえ感じた。

 そうして、那桜が桜花組で過ごす最終日を迎えた。


「最初はどうなることかと思ったが、なかなかに骨のある男だったな」
「認めたくねぇが、染井の若頭は伊達じゃねぇよ」


 そんな風に那桜を褒める人まで現れる程。


「……俺は認めねぇ」
「悠生?」
「俺は認めねぇって言ったんだよ」


< 102 / 176 >

この作品をシェア

pagetop