幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。
ドタドタという足音とともに組員たちが帰って来たのがわかった。
「お、悠生先に帰ってたのか」
「ん?お嬢?どうしたんですかい?」
「あ、えっと、おかえり……」
「なんでもねぇよ」
悠生は素っ気なく吐き捨て、立ち去ってしまった。一度も振り返ることはなかった。
「なんでぇ、あいつ。お嬢と喧嘩したんか?」
「いや、そういうんじゃないけど……」
それから悠生は部屋に引きこもってしまい、夕飯も食べに来なかった。
組員たちは那桜の作った料理を食べ、悔しそうに舌鼓を打っていた。
それから悠生は私を避けるようになった。
話をしたくても朝一で出かけてしまう。夜帰って来るのも遅かった。
悠生は他の誰にも私たちのことは言っていないようで、他のみんなにはバレていないようだ。
那桜はあくまで何もなかったという風に、見習いとしての仕事をこなしている。いつの間にか桜花組に自然に溶け込んでいるようにさえ感じた。
そうして、那桜が桜花組で過ごす最終日を迎えた。
「最初はどうなることかと思ったが、なかなかに骨のある男だったな」
「認めたくねぇが、染井の若頭は伊達じゃねぇよ」
そんな風に那桜を褒める人まで現れる程。
「……俺は認めねぇ」
「悠生?」
「俺は認めねぇって言ったんだよ」