幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。
* * *
――side.悠生
ギャラリーが集まる桜花組の稽古場に、奴が現れる。ギャラリーと言っても稽古場の外から見ているだけで、実際中にいるのは俺と奴と、審判をしてくれる組員だけだ。
奴は何を考えているのかわからない真顔で俺の前に立った。
「これより、枝垂悠生と染井那桜による一本勝負を行う。先に膝をつかせた方の勝利だ」
この勝負、絶対に負けられない。
この男だけには負けたくない。
こいつだけには、お嬢を譲りたくねぇ。
「始めっ!」
掛け声とともに即座に一歩前に出て、渾身の蹴りをお見舞いした。しかし、左腕一本で受け止められてしまう。
「いきなり仕掛けたな悠生!」
「しかし染井の坊もしっかり反応してる」
チッ、いつもスカしてるくせによく見てやがる。やっぱ一筋縄じゃいかねぇか。
「オラァ!」
すかさず体勢を立て直し、今度はもう片方の足で蹴り上げたが上手く交わされてしまう。
「オラオラ!避けてばっかで勝てんのかよ!」
連続で打ち込むパンチにも奴は交わしたり、受け止めたりで防戦一方。
俺はここぞとばかりに渾身の右ブローを打ち込んだ。しかし、
「ぐはっ」
片手で受け止められたその直後、反対の拳からカウンターを食らう。たった一発なのに重いパンチだった。
俺は思わず後退り、殴られた脇腹を押さえる。
「そっちこそ、闇雲に打って勝てると思ってるんですか?」
「クソガキが……」
――負けるわけにはいかねぇ。
特にお嬢が見てる前で、絶対に負けるわけにはいかねぇんだ。