幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。


――ゴッ。


 俺の渾身のパンチは奴の右頬に入ったが、膝を着かせることはできなかった。
 よろけさせることはできたが、地に足がしっかりと着いている。

 全力を拳に込めたのに、諸共してねぇようで腹が立つ。
 奴はペッと唾を吐き、俺が殴った頬を拭う。


「結構効きますね」

「効いてんならそういうツラしろよ」

「表情にあまり出ないんですよ。そういう躾をされてきたもので」

「お嬢が絡むとダダ漏れのくせに」

「……」


 ほら。眉が動いたのを見逃さなかった。


「よく吠える番犬ですね」

「テメェこそいつまでも余裕ぶってんじゃねぇよ。テメェのそういうところが腹立つ」


 地位も力も何もかも持ってるくせに、なんでお嬢なんだよ。テメェなら選び放題のくせに。


「テメェなんかにお嬢は渡さねぇって言ってんだよ……!」

「――その、渡さないって言い方だけど。お前はただの番犬だろ?」


 急に声のトーンが絶対零度になった。


「身の程を弁えろ、犬のくせに」

「……!」


 指先からピリッとした痺れを感じた。
 時折見せる狼のような獣のオーラ。ドス黒い殺気をまとったと思った時には――もう遅かった。


「ぐ……っ!」


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