幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。


 言葉の意味を飲み込むのに時間がかかったし、思わず那桜の顔を見返してしまった。

 那桜は真顔だ。
 真顔になると、目鼻が整っていることが憎たらしい程よくわかる。天然なのか疑う程まつ毛は長い。

 真顔でさえ私をからかうのかと思うと、沸々と怒りが湧いてくる。


「バカにするのもいい加減にして!!自分が何言ってるかわかってんの!?」

「わかります。俺は本気です」


 な…………っ。

 なんで?本気で意味がわからない。


「俺は本気で鏡花が欲しいんです」


 幼馴染で腐れ縁だからわかる、わかってしまう。
 那桜の目が本気だってこと。

 稀に見せる那桜が本気になる時の目だ。

 本気でケッコン……?
 那桜が私と?

 ケッコンってあの結婚??

 絶対あり得ないでしょ――!?


「鏡花、俺と結婚してください」

「っ!?」

「誕生日プレゼントくれるんでしょ?鏡花を俺にくださいよ」

「そっ……、んなのあげられるわけないでしょっ!?」


 私は耐えられなくなってその場から逃げ出した。
 全速力で廊下を爆走した。途中先生に何か言われた気がしたけど、無視して無我夢中で走り続けた。

 あり得ない、あり得ない。

 だって、私と那桜だよ?

 桜花組の娘と染井一家の若頭が結婚なんて……絶対におかしいから!!


「え……、てかそもそも那桜って、私のこと好きなの……?」


 思わず立ち止まって振り返った。


『俺は本気で鏡花が欲しいんです』


 真面目な表情でそう言った那桜の言葉が反芻される。
 おかしい、こんなの絶対におかしい!


「っ、なんで…………」


 なのにどうしようもなく胸がドキドキしてしまうのは、なんでなの――?


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