幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。


 突然ガチャリと部屋のドアが開いた。
 そこに立っていたのは大山と――


「……親父」


 俺の父で染井一家の組長・染井義徳(よしのり)その人だった。


「那桜、何をしている」


 親父は低い声で俺と鏡花を睨み付ける。


「何故桜花組の娘がここにいるんだ?」

「……」

「若、申し訳ありませんが、少々様子見させていただきました」


 淡々とそう言ったのは大山だった。


「そこのお嬢さんが潜り込んでいたのはわかっていましたが、敢えて泳がせました。嫌な予感はしていたのですが、まさか本当にこんなことになっていたとは……」


 こんなに上手くうちのセキュリティを掻い潜れるわけないと思っていたけど、やっぱり気づかれていたのか。側近が優秀すぎるのも厄介だな。


「那桜、お前自分が何をしているのかわかっているのか?」

「……もちろんです」

「そうか――」


 その直後、思いっきり顔面を殴られた。
 久々に受けた親父の拳は、あの番犬くんの比ではなかった。


「……っ」

「那桜!!」


 鏡花が半泣きになりながら俺にしがみつく。鏡花だけでも守らないと……。


「大山、この娘を連れて行け」

「はい」

「え……っ」


 大山がグイっと鏡花の腕を引っ張ったのを見て、カッとなった。


「鏡花に触るな!!」

「お前はこっちだ」

「う……っ」


 まるで赤子の手を捻るかのように、親父は俺を押さえ込んでしまう。悔しいことに身動き一つ取れない。


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