幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。
* * *
俺は仕置き部屋へと連れて行かれた。ここに連れて来られたのは二度目だが、病み上がりでも容赦はないらしい。
「那桜、目を覚ませ」
親父は俺の胸ぐらを掴み、ギロリと睨み付ける。その眼光だけでビリビリと痺れるような感覚を覚える。
「染井の若頭であるお前が、桜花の娘と通じているなど裏切り行為にも程がある」
「俺は染井を裏切ってなんかいない。変えていきたいと思ってます」
「変えるだと?」
「そもそも何故染井と桜花は対立するのですか?」
代々の商売仇、敵対関係だったとはいえ古い因縁を引きずって未だに争う必要がない。
「二組が手を組めば、より強固な力となる。警視総監もそれを望んでいるのでは?」
「笑わせるな。お前が思っているより簡単なことではない。桜花と手を組むなど断じてあり得ん」
「頭のかてぇ親父だな……」
「何だと?」
「待ちなさい」
たった一言でその場の空気を変える、凛とした声が響いた。
「美咲!」
「母さん……」
「あなた、那桜を離して」
母さんがそう言うと、親父は俺を解放する。
夏でも黒い和服をまとい、黒髪をきちんと結わき、唇に赤い紅を差した母は今日も極妻らしく堂々としていた。
「那桜、しばらく若頭の任を解きます。頭を冷やしなさい」
「美咲……!」