幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。



 え…………?


「だから、君とは付き合えない」

「っ、わかりました……ありがとうございました」


 走って私の横を通り越した彼女の瞳には、大粒の涙がこぼれていた。
 そんな彼女の背中をただ呆然と見送っていた。


 今の、どういうこと?
 那桜って、好きな人いるの――?

 好きな人がいるのに、私にプロポーズしたってこと?


「……なにそれ」


 私のことバカにするのもいい加減にしてよ。
 どんなつもりであんなこと言ったわけ?

 本気でライバルだと思ってるのに、どうしてこんな……っ。


「……っ」


 自分でもわけがわからないくらい胸が苦しかった。
 那桜にとって私は、ライバルでも何でもないただの敵対する家の娘なんだって。
 気に留める程の存在でもないんだと思ったら、すごく悲しかった。

 それだけじゃない、那桜に好きな人がいたこと。
 鋭い針が心臓を突き刺したみたいに、すごく心が痛い。

 なんでこんな風に思うのかはわからないけど、痛くて苦しくて仕方なかった。


「――お嬢?」

「……」

「こんなところで何してるんですか?」

「っ、私に話しかけないでっ!!」


 今は那桜の顔なんか見たくない。
 下剤入りクッキーのことなんか忘れて、粉々になるくらい握りしめたまま立ち去った。

 那桜なんて、大嫌いだ。


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