幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。


 私の唇に、那桜の唇が重なり合ってる。
 そのことを理解するまでまるまる1分間くらいかかったし、気づいた時には離れていた。

 目の前にはものすごく不機嫌そうな那桜がいた。


「……なんでわからねぇんだよ、この鈍感」

「な……っ」

「言っておくけど、俺は軽々しくキスしたりしないから」


 き、き、き、きす。
 魚の(きす)、なわけないよね……。

 え、キスした?
 那桜が私に?


「…………っっ」


 言葉が発せず、鯉みたいに口をパクパクさせる。


「何とも思ってない女にプロポーズなんかしない。本気だって言ってるでしょう」

「な、な、な」

「じゃあ、資料まとめ終わったんで帰ります」


 いつの間にか綺麗に整頓された資料の山を教卓に置き、那桜は踵を返した。そのまま教室から出て行ってしまう。

 一気に力が抜けた私は、その場にへなへなとへたり込む。そして自分の唇に触れた。

 微かに残る柔らかな感触。急にドッと心臓の高鳴りが激しくなり、顔から湯気が出そうになる。

 キスされた。那桜にキスされた。
 なんで?わけがわからない。


「……っ、返せ私のファーストキス!!」


 一人きりの教室で、私の叫び声が虚しくこだまする。


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