幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。
八重はふう、と息を吐いてからお茶を一口すする。それから肩を竦めて私を見た。
「いい加減那桜さんときちんと向き合って差し上げませんと」
「だって……」
八重得意の黄金色に輝く卵焼きを箸でつつく。
私好みの甘めの味付けで美味しい。
「〜〜っ、無理!!」
「何故ですの?」
「なんかこう、むず痒いっ!!」
なんていうか、背中が痒いのに上手く掻けなくてムズムズするみたいな気持ち悪い感覚。
「だから八重も一緒に来て!!」
「わたくしお邪魔虫にはなりたくありませんわ」
「八重なら邪魔じゃないじゃん!」
「そうでしょうか……」
「お願いします!!」
「全く……わたくしはお二人の様子を高みの見物したいだけですのに。
わかりました、保護者として付き添って差し上げます」
「八重……!!」
保護者っていうのが引っかかるけど、この際何でもいい!!
「但し、きちんと那桜さんのことお考えなさいませ。
家のことではなく、きちんと那桜さん自身と向き合うのです」
「うっ」
「それが誠実というものですわ」
「……わかった」
確かに私は染井一家の若頭となんて、って枠組でしか見ていなかった。
というより、見たくなくて目を逸らしていたような気がする。
那桜自身と向き合うこと。
それはなんだか、開けてはいけない箱を開けてしまうような気がしていたから――。