幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。


 ほんっっとに那桜って嫌味なやつ!!
 いつもさりげなく私の上をいくのが悔しい。

 だけど、何だろうな。今、すごく楽しい。
 びっくりするくらい、何をするにしても心のどこかでは楽しんでいる自分に気がついた。

 思えば三人で遊ぶのなんて何年ぶりだろう?
 何でもかんでも那桜と張り合って、それを八重が呆れた表情で見ていて。
 何だかすごく懐かしい気がする――。


「あれっ、八重は?」


 お手洗いから戻ったら、八重の姿がなかった。


「帰られました」
「えっ!?」
「これから華道の稽古だそうです」
「嘘でしょ!?」


 それじゃあ……、那桜と二人きり!?


「わっ私もそろそろ……!」
「待ってください」


 帰ろうとした私の腕をすかさずガシッと掴む那桜。


「ここからがデートの本番ですよ」
「…………」
「逃しませんからね」


 那桜は口元は笑っていたけど、目は笑っていなかった。
 三人で遊ぶのが楽しくて忘れていたけど、そういえば元々はデートだったんだ……。

 八重がいなくなったことで、急に「デート」を意識することになってどうしていいかわからなくなる。もう今すぐ逃げたい。


「行きますよ」
「えっ!ちょっ」


 掴まれた腕は一瞬離され、すぐに手を握られる。あまりにも流れ作業のようにするっと手を握られ、振り解くとかそんな暇なかった。

 しかもなんか……、指が絡まり合ってない!?
 これはいわゆるカップルがやるやつでは!?


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