幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。


 目を逸らしたいのに、逸らせない。
 ドクンドクンと心臓の音がどんどん大きくなる。こんなに賑やかなのに、どうしてこんなにはっきり聞こえるの?

 那桜の目が苦手だ。苦手だけど、好きだった。

 私を真っ直ぐ見つめるその瞳が、私だけを映すその瞳が好きだった。
 だって、この人と対等に向き合っているのは私なんだって。那桜のライバルなんだってそう思えるから――。

 でも同時に苦手だった。だって……、


「……やっぱり綺麗ですね」

「……へ、」

「そのグレーの瞳。綺麗ですよ」

「……!」


 いつか那桜に何もかも奪われてしまうんじゃないかって、怖かったから。

 そういえば、あれは那桜に言われたんだった。
 幼稚園の時「変な色」って言われ、自分の目が恥ずかしく思っていた頃、那桜が微笑みながら言った。

『きょーかちゃんのおめめ、きれいだね』

 褒めてもらえたことが嬉しかったのに、ちょっとだけムズムズした。
 那桜があまりにも真っ直ぐ私を見て微笑んだから。


「……あ、」

「嫌なら殴ってください」

「……っ!」


 顎をくいっと上げられて、那桜の顔が近づく。私は思わずぎゅっと目を瞑った。

 これはヤバい、肯定したようなものじゃん……と思ったその直後に唇を重ねられた。
 二度目のキスは震えるくらいにドキドキした。

 二人だけのバルコニーで、誰にも言えない秘密のキス。
 こんなのダメだって理性も頭の片隅にはある。でも、本能は目の前の那桜に飲まれていた。

 思えば、私の心にはいつも那桜がいた。
 那桜にどうにかして勝ちたくて、認めてもらいたくて。その瞳に映りたかったんだ。

 奪われたくないと思いながら、本当はもうとっくに奪われていた。


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