スイートルーム
【1】ピンク色のホテル
「どうぞ、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」
柔らかくにこりと微笑み、ゆったりとした口調でそう言ったあと、あたしは客室のドアを静かに閉めた。
はぁー……。
最後の言葉、噛まずに言えたよ。
『ごゆっくりどうぞー』じゃダメなのかなぁ。
そんなことを思いながら。
長い客室フロアーを、背筋を伸ばしモデルのように練り歩く。
常に笑顔。
常に姿勢正しく。
……って、誰もいないのに。
なんだか笑える。