スイートルーム
【6】ガーベラ
彼女が戻ってくることを知らせる携帯は、まだ鳴らない。
――どうか、鳴らないで。
そう願う、次郎を好きだと思うあたしと。
――お願い、早く鳴って。
ひたすら願い続ける、ホテルマンのあたし。
どっちが本物のあたしなんだろう……。
「なぁ、美月。あいつが戻ってきても、俺が無理だって言っただろ?」
ほろ酔い加減になってきた次郎の口調が少しずつ変わる。