神託で決められた結婚相手が四十路間際の中年伯爵さまでした。とても気が合って良い方なのですが、私も彼も結婚する気はありません。
「あの、どなたか、他に好いた女性が……いらっしゃるのですか?」
純粋な疑問を口にした後で、失礼なことを聞いてしまったと、マルガレタは口もとに手をやった。
「いいえ、いませんよ、そんな人は。恥ずかしながら私はあまり人付き合いが上手くない方でしてね。趣味に没頭しているうちに、気付いたらこんな歳になっていたわけなのです」
自嘲混じりで朗らかに笑う伯爵。
マルガレタはその笑顔に後押しされ、続けて尋ねた。
「ご趣味……といいますと?」
「考古学の研究を、少々。あとは私、食い道楽といいますか、特に甘いものに目がないのですよ」
彼はそう言って、ここぞとばかりに侍従にお茶とお茶菓子を持ってこさせる。
「どうぞ召し上がって下さい。奇妙なご縁ですが、せめてものお近づきのしるしに」
聞けば、そのお茶菓子は、城下南端にあるパティスリーのチョコレートケーキとのことだった。
その店は、開店前から並んでも買えるかというほどの人気店だ。
マルガレタも常々食べてみたいと思っていたのだが、今までありつけたことはない。