神託で決められた結婚相手が四十路間際の中年伯爵さまでした。とても気が合って良い方なのですが、私も彼も結婚する気はありません。
「だいたい、初代の巫女の預言がヴィルイーン王国で百発百中だったからといって、今の巫女がそうであるとは限りませんのに! そうは思いません?」
「……ヴィルイーン? 初代巫女が暮らしていたのは、隣国のアルデマイラだったはずですが……」
「あら? そうでしたっけ。学園の図書館で調べた本には、それより西のヴィルイーン出身とあったのですが」
マルガレタは巫女のことなど興味もなかったので、千年前の初代の伝承についてもほぼ何も知らなかった。
今、彼女が話したことは、学園の休み時間に見た、一冊の本からの知識に過ぎない。
また、彼女同様、この国の者たちは巫女に対してなじみが薄い。
神託の巫女が彼らの国ルルサスに来たことは、実のところ今回が初めてだからだ。
それゆえ、初代巫女が隣国のさらに西の出身だとはアルトナーも知らなかった。
彼はそこに妙な違和感を覚え、遣いの者を西端の小国、ヴィルイーンへと派遣することに決めた。
「……あの、どうかなされたのですか? わざわざ使いの方を送られるというのは……」
「いえ、お気になさらず。どうということもありません。しいて言うなら、これも知識欲でしょうか。こういうことは、すみずみまで調べておいた方が良いように思うのです」
「……? はぁ……」
そして、国教会からの『強制婚姻命令』が下されるのは、ここからさらに一月先のことだった。