神託で決められた結婚相手が四十路間際の中年伯爵さまでした。とても気が合って良い方なのですが、私も彼も結婚する気はありません。
「閣下! 遅れまして申し訳ありません!」
それはアルトナーの執事だった。
その年若い執事は主人の命により、今までヴィルイーン王国へと使いに出されていたのである。
大陸の端に位置するヴィルイーンは、ここからかなりの遠方だ。
だが、目的の物を見つけ出した執事は、大急ぎで帰国の途に就く。
そして、ギリギリのところ、主人が巫女や司教と対峙するこの間際で、戻ってくることができたのだった。
「どうだった」と尋ねるアルトナーに、執事は二冊の文献を手渡す。
そして、何やら耳打ちする。
それを聞いたアルトナーは、本をざっと確認すると「思った通りか」と、大きくうなずいた。
何事かと怪訝にのぞき込む司教たちに、アルトナーは向かい合う。
彼は静かな声で巫女に尋ねた。
「巫女殿、一つ質問させて下さい。あなたが受ける神託とは、具体的にどのようなものなのですか」
「え? どのようなと言われましても……。そうですね……前触れもなく、私の頭の中に、一組の男女の名前が告げられるのです」
「では、それはどういう男女の組み合わせなのですか。『幸せになれる男女の組み合わせ』ですか? それとも、『愛し合うべき男女の組み合わせ』?」
「すみません、その二つの違いがわからないのですが……正確には、後者に近いでしょうか。その男女が契りを交わした時、永遠の愛によって未来永劫結ばれる。真実の愛を育むことができる者たちだと、夢でそのようなお言葉を賜ったのです」
「……やはりな」
アルトナーは小さくつぶやいた。