神託で決められた結婚相手が四十路間際の中年伯爵さまでした。とても気が合って良い方なのですが、私も彼も結婚する気はありません。

「もちろんこれだけでは、単なる点、歴史の小さな一事実にしかすぎません。ですが、複数の事実をつなぎあわせることで、それらは線を為し、意味が生まれるのです」

 アルトナーはもう一冊の本を掲げて言った。

「こちらは隣国アルデマイラの文献です。初代巫女が骨を埋めたというアルデマイラですので、当然彼女の記録も多く残っていました。ここには次のようなことが書かれています。『初代巫女は、ヴィルイーンより一組の男女を引き連れ、やって来た。その男女も神託を受けた夫婦であったという──』」

 一旦呼吸を置いて、彼は言う。

「私は事前調査においてこのアルデマイラの文献を見つけ出し、それからヴィルイーンへと使いをやりました。
 最初に違和感を覚えたのは、初代巫女がヴィルイーンの出身だと聞いた時ですが、どうしてそのことが広く知られていないのか──おそらくこの男女に何かあると思い、そこを重点的に調べさせたのです。まあ、出自が知られていない理由は、巫女自身が語らなかったという単純なものでしたが。
 ですが、彼女が自らの出自を語らなかった──”語りたくなかった”その内情こそが──私が見つけた、巫女の神託が絶対ではない根拠なのです」

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