神託で決められた結婚相手が四十路間際の中年伯爵さまでした。とても気が合って良い方なのですが、私も彼も結婚する気はありません。
11.
「神託が……絶対ではない……?」
「アルトナー伯爵、それはどういう──」
「結論を言いましょう。初代巫女とともにアルデマイラにやって来た男女。彼らこそ、ヴィルイーンで滅んだ二つの有力貴族の令息と令嬢だったのです。
もともと両家は領地が隣接し、力関係も拮抗、何かと意識し合う関係にあった。だが、険悪というわけではなかった……少なくともある時までは。
けれど、ある時──そう、令息と令嬢が神託を受けたまさしくその時に、両家の関係性は急展開を迎えることになるのです」
「! まさか……」
最初に言葉の意味に気付いて声を漏らしたのは、当代の神託の巫女。
「令息と令嬢が結ばれるとなれば、必然的に両家の間につながりが生まれる。
とはいえ、つながってめでたしめでたしとはならない。その政略結婚は、千載一遇の好機にして危機でもあるからです。
互いが結びつくその時に、自家が上であることを示さなければ、この先ずっと他家に押さえつけられたままとなってしまう。
両家ともそのような思惑から行動し、最終的にはその憂慮が抗争へと発展する……。
つまり、両家が共倒れになったのは、そのような経緯によってのことなのです」
「そんな……」
マルガレタがおののく。
後ろで話を聞いていた司教たちも、驚愕の表情となった。