神託で決められた結婚相手が四十路間際の中年伯爵さまでした。とても気が合って良い方なのですが、私も彼も結婚する気はありません。

 要するに、初代巫女の預言が遠因となって二つの貴族家が潰し合ったのだ。
 神託によって令嬢と令息は婚姻に至る。しかし、互いの家はその婚姻がきっかけで、本来しなくてもよかった争いを起こし、傷つけあってしまう。
 言い換えれば、カップルたち当人は置いても、彼らの家は神託によって滅んだようなもの。

「二つの家は使用人なども含め、ほぼ全員が死亡したそうです。
 一方、令嬢と令息は初代巫女とともに、ヴィルイーンを出奔。三人が何を思って国を後にしたのかはわかりません。
 皮肉なのは……神託そのものに誤りはなく……男女二人は生涯夫婦として仲睦まじく過ごしたということでしょうか」

 そこでアルトナーは本を閉じ、顔を上げた。

「つまり、神託は愛しあうべき男女を結びつけるものであっても、それ以外を保証するものではないということ。
 愛し合う二人の裏で何が起きようとも、そこまで神様は守ってくれない。
 それどころか悲劇の引き金になることもある……まあ、そんな感じで、我々はあなたの神託を拒否する理由があるということですよ」

 言葉もない教会関係者たち。

 その中でも特に巫女は、神託を拒まれたこと以上に、それが間接的でも人の命を奪ったことに大きく動揺したようだった。
< 24 / 31 >

この作品をシェア

pagetop