神託で決められた結婚相手が四十路間際の中年伯爵さまでした。とても気が合って良い方なのですが、私も彼も結婚する気はありません。
「なあ、巫女殿。別に俺はあなたのことを疑っているわけじゃない。神託が嘘とも思わないし、悪意があるとも思ってない。でも、わかってほしいんだ」
「な、何を、ですか……」
「人が進む道は、自分で決めるからこそ意義があるということをさ。愛する誰かと一生を添い遂げられる……それはそれで素晴らしいことなんだろうが、自分で道を選べるということも、大事なことなんだよ」
「えっ……」と、言葉に詰まる巫女に、アルトナーは続ける。
「マルガレタ嬢を見ただろう? 彼女はまだ若い。恋愛関係も含めて、これからあの子はさまざまな選択をすることになるだろう。
もちろんその中で、手痛い失敗をすることもあるかもしれない。
けれど、人はそういう経験によって成長していくものなんだ。
そしてそれは……自分で決めたことだからこそ大きな糧となる」
「……自分で……決める……」
「まあ、貴族のご令嬢が自分で選べる場面なんてあまりないのかもしれないけど……だからこそ、少しでもあの子の可能性を閉ざしたくないんだよ」
「……あなたは……本当に彼女のことを……」
「……それにさ、何が最良の結婚かなんて、わからないとは思わないか?
たとえば『激しく燃え上がる運命の相手と結ばれて、数年で死別』と、『最高に好きというわけでもないけど、それなりに平和に暮らして二人で大往生』、これ、どっちがいいと思う? 俺だったら……答えられないね」
「そ、それは……」