好きな事を言うのは勝手ですが、後悔するのはあなたです
12 両思い?
「リリンラ様が離縁された?」
レストランの個室でランチを一緒に食べていた際、ラルから聞かされた話に驚いて聞き返した。
リリンラ様は、お子さんを生んで少ししてから、コッポプ伯爵が決めた相手と結婚された。
けれど、すぐにリリンラ様が他の貴族の男性と浮気しているのが発覚し、そのせいで離縁され、現在はコッポプ伯爵家に子供と一緒に戻ってきているのだと教えてくれた。
「浮気する奴はまた浮気する可能性が高いって本当だな」
「お子さんが可哀想だわ…」
「コッポプ伯爵にとって血の繋がった孫ではないけど、赤ちゃんに罪はないから面倒はみるんじゃないか? 生んだ本人は、子供をナニーに任せて、自分は遊び回ってるみたいだ。それに関しては本当の母親も呆れているらしいから、彼女は家から見捨てられる可能性はあるな」
「そうなのね…」
このままだと、生まれてきた赤ちゃんは、本当のお父様とお母様の事を知らずに育つ事になるかもしれない…。
その方が幸せなのかしら…?
「それにしても、言葉遣いをなおすのって難しいもんだな」
「私は言葉遣いの悪いラルが好きだったけれど、なおすと決めたものね」
この頃のラルは、言葉遣いを直そうとしていた。
それがなぜかはわからない。
聞いたら、曖昧な答えが返ってきたから。
自分と相手の為だと言っていた。
やっぱり、ラルには好きな人がいるのね…。
この頃にはラルへの気持ちを自覚していたけど、自覚してすぐに失恋だなんて、恋愛運が悪すぎるわ。
「そういや、今度、パーティーに誘われてるんだけど、一緒に行ってくれないか?」
「……別にかまわないけれど、ラルには誘いたい人がいるんじゃないの?」
「だから、誘ってるだろ」
「………どういう事?」
「フリーになったから、遠慮する必要がなくなっただろ」
パチパチと目を瞬かせると、ラルは不機嫌そうな顔になって、身を乗り出して、向かい側に座っていた私の鼻をつまむ。
「鈍い」
「鈍くなんかないわ! それに、テーブルに身を乗り出したら駄目よ」
「それは失礼しました。貴族って本当に面倒だよな」
「……面倒なのに、どうして爵位をもらったの? 他にも報酬は選べたんでしょう…?」
「……」
ラルは不機嫌そうな顔のまま、私を見つめる。
「本当にわかんねぇの?」
「言葉遣いが悪いわ」
「本当にわからないんですか」
ラルは私から視線をそらさない。
もしかして…、その、自惚れてもいいの…?
「あのね、ラル」
「ん?」
「好きよ」
「それで合って……、は?」
合ってると言おうとしたみたいだけど、どういう意味かはわからない。
だけど、勢いで言ってしまうことにする。
「私、ラルが好きみたい」
「……みたい?」
「じゃなくて、好き」
「……男女間の友情は成り立つって言ってなかったか?」
「成り立つわ! 成り立つけど…、私とラルは別…」
言葉が尻すぼみになっていく。
だんだん恥ずかしくなってきた。
俯いていると、ラルが動いたのか、椅子が引かれる音がした。
そして、ラルの靴が俯いている私の視界に入った。
「反則だろ」
「……え?」
顔を上げて尋ねると、ラルは少しだけ頬を染めて、不満そうに言う。
「ジリジリと逃げ道をなくして逃げられなくなるまで…、言い訳できなくなるまで追い詰めてから言おうと思ってたのに」
「……どういう事?」
「俺も好きだよ」
ラルはそう言うと身を屈めて、彼を見上げた私の唇を彼のそれで塞いだ。
「………」
触れるだけのキスの後、私が呆然としていると、ラルは照れくさそうにして、視線をそらしてから言う。
「遠慮すんのはやめるから」
「……ほどほどでお願いします」
消え入りそうな声でお願いすると、ラルが笑う。
「嫌に決まってんだろ」
「だ、駄目よ、駄目!」
ラルがまたキスしてこようとしたから、慌てて彼の顔をおさえて叫ぶと、ラルは私の手を掴んで文句を言う。
「なんでだよ」
「だって、まだ、食事の途中でしょう!?」
「………」
ラルは渋々といった感じで、自分の席に戻った後に言う。
「覚悟してろよ」
「何を!?」
彼の言う通り、私はこの日から、たまに憎まれ口を叩かれながらも、ラルにデロデロに甘やかされる事になる。
ちなみに、ラルの気持ちをお父様もお母様も知っていらして、両思いだという事を報告すると、笑顔で婚約を認めてくれた。
それは、ラルのご両親もだ。
ラルの気持ちを知らなかったのは、私だけだったらしい。
お父様が次の婚約者を探そうとしなかったのは、ラルがいたからなんだそう。
私とラルが卒業後に結婚の話を進めている最中、リリンラ様が家を追い出され、娼館で働く様になってしまうのだけれど、それはまた、別の話。