好きな事を言うのは勝手ですが、後悔するのはあなたです

9  知った事ではないんだけど?

 もう関わる事のない人だからと、お父様は教えてくれていなかったようなのだけれど、本人も言っておられた通り、ハック様は縁を切られて家から追い出されていた。

 コッポプ伯爵が彼を婚約者にするだなんて認めないと、お怒りになったそうで、責任をとらせようにもとらせる事ができなくなったエルビー伯爵は、ハック様を家で大人しくさせようとしたところ、脱走を繰り返し、それだけならまだしも、フラフラと女性遊びを繰り返すものだから、こんな息子に後を継がせるのも無理だと、堪忍袋の緒が切れてしまったんだそう。

 なぜ、真面目なエルビー伯爵の家で、ハック様の様な人が育ってしまったのかはわからないけれど、厳しすぎた結果の反動なのかもしれない。

 でも、浮気癖は酷すぎるわ。

 それに、ハニートラップにすぐに引っ掛かりそうだし…。

 一応、縁を切る際に十分に生活できるお金を渡されたそうなんだけど、金銭感覚のない彼はすぐに使い切ってしまったみたいだった。

 リリンラ様はその事を知らなくて、一向に会いに来ない彼に痺れを切らし、なぜか私に手紙を送ってきたんだそう。

 会いに来ないのは私と浮気しているからと思ったのかしら?
 実際は、彼女のお父様が反対していただけなのにね?
 結局は、私に手紙が送られてきたという事で、お父様からコッポプ伯爵に連絡がいったため、リリンラ様には真実が知らされる事になると思われる。

 迷惑をかけられた私としては、最初から、話をしていれば良いのにと思ってしまった。

 あんな事があったけれど、プレゼントを無事に買い終えて邸に帰り、夕食と入浴を終えて、ベッドに横になって、そんな事を考えていると、ふと、ラルと手を繋いだ事が思い出された。

 今更だけど、ラルって男の人なのよね…。

 手を握って歩いたけれど、子供の時とは全然違って、ラルの手は大きかった。

 私の手をすっぽり包んでしまっていたもの。

 もちろん、ハック様とも手を繋いでいたけれど、ラルと手を繋いだ時も同じ様にドキドキしてしまった。

 ラルと私は幼馴染で、異性として意識するはずないのに、胸がドキドキしたのはなぜなの?

「………」

 まさか、ラルの事が好きだなんて事はないわよね?
 ハック様に婚約破棄されてから、そう何ヶ月も経っていないのに…!

 下手に意識して、明日からラルと話せなくなる方が嫌だわ!

 寝転んだまま、両頬を叩くと、今日の事は忘れてしまおうと思い、眠って忘れる事にしたのだった。



 次の日の朝、目覚めた時にはラルに対して、ドキドキしていた気持ちもなくなっていて、大丈夫だと自分に言い聞かせていたのだけれど、ラルを目の前にすると駄目だった。

「おはよ」
「お、おはようございます…」
「……?」

 朝食時、私の反応がおかしい事に気付いたのか、ラルが眉間にしわを寄せて尋ねてくる。

「何かあったのか?」
「う、ううん! 何もない!」
「そんな風には見えねぇけど…」
「大丈夫! それよりも昨日はありがとう」
「…ならいいけど。無事に買えて良かったな」
「うん!」

 ラルは昨日の事は特に意識していないみたいだった。

 ラルには好きな人がいるから、私と手を繋ぐ事なんて意識なんてしないんでしょうね…。

 何だか寂しい気もするけれど、ラルの幸せを願わないといけないわ。

「なんだよ、さっきから人の顔をジロジロ見て」
「ごめんなさい。いつも、ありがとう、ラル」
「いきなり何だよ」

 ラルは訝しげにしていたけれど、最終的には「どういたしまして」と言ってくれた。





 それは数日後の夕方のこと。

 学園の帰りにミーファの誕生日会をした。

 といっても、私とミーファでカフェに行ってケーキを食べて話をしただけなんだけれど。

 2人でのパーティーを終えて、私の乗った馬車が家の門の近くまで来た時だった。
 馭者の叫び声が聞こえたと同時に馬車が停まった。

 一体、何だろうと思って窓から外を覗くと、男性の叫び声が聞こえた。

「少しだけでいい! アンジェと話をさせて下さい!」

 その声は、ハック様のものだった。

 どうやら、ハック様が道を通せんぼしているみたいで通れない様だった。
 
「そこを退くんだ!」

 護衛騎士が叫ぶと、ハック様が言う。

「アンジェ、やっぱり、僕には君しかいないんだ! 聞いてくれ! リリンラには僕以外にも男がいたんだ! そいつと結婚するって言うんだよ!」

 そんな事を聞かされても、私には知った事ではないんだけど!?
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