ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。

沈黙の皇子との出会い

はじまりは婚約破棄

「アルビス・アルム皇太子殿下。婚約を破棄させて頂きますわ」

　私は静かに、婚約者である皇太子に向かって婚約破棄を宣言した。
　私が彼に婚約破棄を宣言したのは、婚約し続ける理由がないからだ。

　婚約者を、一体なんだと思っているのかしら？

　気分が悪い時にストレスを発散するための道具としか思ってないせいで、皇太子の隣に立っているだけでも平手打ちが飛んできた。
　この国を担う王族とは思えぬ仕打ちを見ても、誰も私を庇うことはない。

　どうかしているわ。この国も。この国の住人も。

　とても婚約者に向けるような態度ではない皇太子からの扱いに耐えかねた私は、こうして公衆の面前で婚約破棄を宣言するに至った。

「貴様との婚約は王命だ！貴様の一方的な宣言だけで、婚約を破棄できる筈が──」
「勝手に、私の一存であると決めつけないで頂けるかしら。貴方が私に手を挙げた瞬間をすべて記録し、陛下に報告させて頂きました」
「なんだと！？」

　皇太子は幼い頃からいいなりだった私が、牙を剥くなど思いもしなかったようね。記録の魔法を発動できる魔法具は、べらぼうに値が張るもの。小娘が親に強請(ねだ)った所で、簡単に買い与えられる代物ではない。

　私が記録の魔法を発動できる魔法具を発動させて、夜会に集まった貴族の皆様へ、皇太子の蛮行(ばんこう)を大公開してあげた。あるものは悲鳴を上げ、あるものは痛ましい物を見るような目で私を見つめてくる。
　反応は様々ね。誰がどのような反応を示したのか、覚えておかなければ……。

「陛下は12年間、私が過酷な環境に置かれていることに気づかなくてすまなかったと謝罪をしてくださいましたわ。殿下は、私に謝罪をしてくださらないのですか」

　私が謝罪を促せば、彼は顔を真っ赤にして激昂した。
　自分の非を認められない男を、誰が王として認めるのかしら。嘘でもいいから、謝罪をしておけばよかったのにと思わずにはいられないわね。

「婚約者を痛めつけて、何が悪いのだ！俺のものだぞ！？」
「私は貴方のものではありません」
「黙れ！」

　皇太子が私に向かって右手を振り上げた。本当に、すぐ手が出るのね。