ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 威嚇してもいいのだけれど、せっかく私を仲間に引き入れようと、暖かく迎え入れてくださったんですもの。
 それ相応の態度を心がけなくてはいけないわね?

「申し訳ありません……。私、社交場は初めてで……仕立屋に詳しくありませんの。ディミオが一人で、手配をしてくださったから……」
「まぁ。淑女たるもの、仕立屋をご存知ないなんて……」
「それはいけませんわ。私達でよろしければ、とっておきの仕立屋をご紹介致します」
「まぁ。ありがとう、皆さん。とても優しいのね?先程ディミオが私のために用意していたドレスを貶したご令嬢方と、同一人物とはとても思えませんわ」

 私が笑顔で嫌味を言えば、ご令嬢達はヒシリと石化した。この程度で顔色をころころ変化させるなど……なんて低レベルな集まりなのかしら?
 第一皇子の派閥が、派手好きな無能の集まりだと批判されていたのは当然のことだわ。
 ロスメルはよくもまぁこの中に混ざって、呑気にお茶会など続けられたわね。
 尊敬してしまうわ。

「あれは、手違いで……」
「どれほど素晴らしい仕立屋を紹介してくださるの?」
「そ、それは」
「テルーゼンはいかがかしら?あの仕立屋は、ドレスのボタンが変わっていて──」
「テルーゼン、ですか」

 別の令嬢たちに囲まれ談笑していたロスメルが、口元に扇を当てたまま口を出す。
 私は仕立屋に詳しくない設定だから、その名前に違和感を感じても口を出せないのよね。
 ナイスアシストよ、ロスメル。
 その調子で、悪知恵の働く悪党を懲らしめてやりなさい!

「皇太子妃にテルーゼンを勧めるなど、信じられません。ボタンは一級品でも、ドレスは粗悪品。そう噂になっていたのを、ご存知ないのかしら」
「まぁ、そうなの?私ったら、不勉強で……」
「仕方ないわ。ミスティナは領地に籠もりきりで、買い物にすら行ったことがないんですもの。王都の常識など、知るはずもないわ」
「ありがとう、ロスメル……」

 私はロスメルの手を握り、瞳を潤ませる。

 テルーゼンがボタンで有名だったのは、昔の話。
 ボタンにときめきオーダーメイドをしたら、完成したドレスが粗悪品だった話は、哀れな子羊に成り代わり社交場へ潜り込んだ時に聞いたことがある。
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