ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
エピローグ
お兄様の憂鬱
「よかったの?」
クソが。
何度壁を殴っても、あいつは俺のもんにはならなかった。
姉貴によかったかと問いかけられて、あれで良かったなんて言えるかよ。
あいつは俺のもんだ。俺だけのもんにするためだけに、ずっと守ってきた。なのに…。
「はっきり言えばよかったじゃない。ミスティナとあんたは、従兄弟だって」
俺はあいつの兄として、生きることを義務付けられた。それが血の繋がりが薄い俺がアクシーの家で暮らす条件だ。親父とお袋なんて呼んでるが、血縁だけで見れば親父とお袋は、俺にとって叔父と叔母だった。
「親父とお袋がうるせーんだよ。あいつを傷つけんな、可哀想だって。王族に求められたら、逃げられねぇよ」
「そう?私はあんたが、ミスティナと駆け落ちする方に賭けてたんだけど」
姉貴は俺を慰めに来たわけじゃねぇ。文句を言いに来たんだ。いくら賭けたのかは知らねぇけど、文句を言いにきたならかなりでかい金額を賭けたんだろうな。
自業自得だ。
文句言われたって、どうしようも出来ねぇ。
あいつは次期国王に愛されてる。離縁したいなんて申し出ても、俺のもんになるわけじゃねぇし。そもそも次期国王が許すわけもねぇ。
あいつへの思いを、ゆっくり昇華していくしかねぇんだよ。
「ミスティナを幸せに出来るのは、あんただけよ」
「うるせぇ」
「ミスティナはいつか、偽りの幸せに疑問抱く時が来るでしょう」
「うるせぇ」
「その時まで、ミスティナへの恋心は、胸の奥にしまっておくのがいいと思うわ。チャンスが来たら、今度こそ。自らのものに…」
「黙れ…!」
人がせっかくミスティナを諦めようとしてるってのにけしかけてくるとか。姉貴は悪魔かよ。
俺の情けない姿がおかしくてたまらないのか、姉貴は妖艶に微笑むと、去り際に一言囁き、俺の前から姿を消した。
『ミスティナは胸の奥底に深く沈めた、自分の気持ちに気づいていないだけ。血の繋がりがないとわかれば、その気持ちが溢れ出すはずよ。その時が楽しみね?』
その時が楽しみ?馬鹿じゃねぇの。
あいつは皇太子妃になったんだぞ。
俺に対する気持ちを自覚したって、関係が始まるわけもねぇ。
俺たちは一生、兄妹のままだ。
あいつは人妻になっちまった。
あいつを求めて俺が手を伸ばしたって、届かない──。