ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「お兄様!」

 あいつは今日も、俺を兄と呼ぶ。

 次期国王は俺があいつへ会いにいくといい顔はしねぇけど、俺からあいつを奪ったんだ。
 定期的に会うくらいは、許されんだろ。

『お兄様、大好き!』

 あいつの口から俺に対する愛の言葉が、紡がれることはない。
 俺の口からだって、あいつのことを愛していると紡ぐわけにはいかねぇんだよ。

「ミスティナ」
「どうしたの?」
「今、幸せか」

 あいつの口から不幸だなんて紡がれるわけがねぇってわかってんのに、俺はあいつを諦める理由を作る為だけに問いかけた。
 俺はあいつの名前をあんま呼んでやらねぇからな。
 あいつは目を丸くした後、花が咲くような笑顔で笑った。

「悪くは、ないわ」

 ここで幸せだと、満面の笑みを浮かべねぇ辺りがあいつらしい。

「辛くなったら、いつでも戻ってこいよ」
「お兄様は、冗談が好きね…」

 あいつは冗談だと思ってるみてぇだが、ここで本気だと騒いだら、あいつとの面会さえも許されなくなりそうだ。
 俺は意地汚い笑みを浮かべるだけに留めると、自信満々に宣言した。

「俺の隣は、てめぇの為に開けておいてやる」

 次期皇帝。
 ミスティナを泣かせたら、容赦しねぇからな。

 俺はあいつの幸せを、遠くで見守ると決めた──。
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